備えとしての成年後見制度(任意後見)をサポートする制度

 備えとしての成年後見制度(任意後見)はその制度単独の利用ですと、うまくいかないという事が多々あります。例えば備えとしての成年後見制度(任意後見)の契約をしたのはいいが、その後数十年間本人と支援する人が会う機会がなかったというような場合、本人との信頼関係が継続しているとはいえないのではないでしょうか。また、成年後見制度は判断能力が低下して初めてスタートしますが、判断能力が低下する前も自分の財産の管理について支援する人に任せたいというような場合には成年後見制度を利用することはできません。
 これらの制度の不備を補うのが、ここでご説明する備えとしての成年後見制度(任意後見)をサポートする制度です。それぞれ解説します。

見守り契約

見守り契約とは

 見守り契約とは、支援する人が本人と定期的に面談や連絡をとり、備えとしての成年後見制度(任意後見)をスタートさせる時期を相談したり、判断してもらう契約です。
 見守り契約をすることによって、定期的に本人と支援する人の意思疎通が可能になるため、備えとしての成年後見制度(任意後見)の契約をしてから数十年間本人と会わないといったようなことを防ぐことができ、信頼関係を継続させることができます。
 この見守り契約は備えとしての成年後見制度(任意後見)の契約を公証人役場で締結する際にセットで締結することもできますし、備えとしての成年後見制度(任意後見)の契約をした後でも公証役場へ行かないで本人と支援する人で私的に締結することができますが、やはり同時に締結しておくことでいつ備えとしての成年後見制度(任意後見)をスタートさせるかという問題を解決してくれるのではないかと思われます。

見守り契約の内容は

 見守り契約の内容は以下のとおり、見守り契約を締結する目的、本人と支援する人のとの面談について、支援する人には見守る義務があることなどを盛り込むことができます。
 また、任意後見契約とセットで契約する場合は公証役場で契約を行います。

目的
任意後見契約が効力を生ずるまでの間について、支援する人の定期的な連絡や訪問により意思疎通を確保し、本人の生活状況および健康状態を把握して見守ることを目的としています。
面談等
本人は、支援する人に対して、数ヶ月に1度電話で連絡をし、また、1年に1回支援する人の事務所等を訪問して面談をします。本人が負担にならないような内容の約束でないといけません。 重要な点は、面談や連絡するなかで本人と支援する人との間の信頼関係を築くことです。お互いに尊重して相手の立場への配慮が重要です。
見守り義務
支援する人は、本人の訪問と連絡を通じて、家庭裁判所に対する成年後見制度のスタートの申立をいつ行うかを考えなければなりません。任意後見契約の問題点の1つである、いつ、任意後見契約をスタートさせるか、という点を補充することができます。
報酬
本人は、支援する人に対し、この見守り契約の報酬として定額の報酬を支払わなければなりません。しかし、この金額は、高額な支払いではありませんので、1年前払いとする事例が多いようです。

任意代理契約

任意代理契約とは

 任意代理契約は、本人の判断能力がまだあるときに、支援する人に財産管理と身上看護の事務を任せる契約です。
 成年後見制度は判断能力が低下して初めてスタートしますが、判断能力が低下する前も自分の財産の管理について支援する人に任せたいというような場合に利用することができます。
 この任意代理契約は備えとしての成年後見制度(任意後見)の契約を公証人役場で締結する際にセットで締結することもできますし、備えとしての成年後見制度(任意後見)の契約をした後でも公証役場へ行かないで本人と支援する人で私的に締結することができますが、やはり同時に締結しておくことでいつ備えとしての成年後見制度(任意後見)をスタートさせるかという問題を解決してくれるのではないかと思われます。

任意後見契約と任意代理契約との相違点

 備えとしての成年後見制度の契約は、判断能力があるときに契約をし、本人の判断能力が低下したときにスタートしますので、判断能力があるまだまだ元気な本人を支える制度ではありません。
 これに対して任意代理契約は、備えとしての成年後見制度がスタートするまでの間、本人を支援して、備えとしての成年後見制度のスタート前に備える契約です。
 備えとしての成年後見制度の契約と任意代理契約との相違点は以下のとおりです。

  任意代理契約 備えとしての成年後見制度の契約
私文書による作成 可(公正証書が望ましい) 必ず公正証書
支援する人を監督する人は選任される? つかない 必ず選任
本人の判断能力 必要 不十分になるとスタート
対象者:身体障害者 不可
対象者:精神障害者・知的障害者 不可

遺言と成年後見制度

遺言とは

 遺言とは、自分の死後に発生する問題を、どんなふうに処理してほしいか指示することができるものです。
 例えば、財産を自分の好きな人に譲りたいという財産の処分から、お葬式は質素に行って欲しいなど自分を死後どのように扱ってほしいかということまで遺言することによって指示することができます。
 成年後見制度は本人が死亡すると終了します。そして、成年後見制度の終了によって支援する人の財産を管理する権限失われてしまいます。
 例えば生前に成年後見制度を利用しており、支援する人に自分が死んだら財産をどのように処分してほしいか伝えていたとしてもそれを実行することができません。
 遺言はこの成年後見制度が終了した後のことも支援する人に自分の財産をどのようにしてほしいか指示することができるため、自分の意思を最後まで尊重することができます。

遺言を残すことができる人

 満15歳以上の人は遺言をするとことができます。成年後見制度においては、保佐と補助程度の判断能力であれば、遺言をすることができます。また、成年被後見人は判断能力が一時的に回復したときに医師2名以上の立会いがあれば遺言をすることができます。

遺言の必要性

 遺言とは、自分の死後に発生するであろう問題を見越して、どんなふうに処理してほしいか意思表示しておくものです。どんな内容を遺言してもかまいませんが、法的に有効なものは以下の事項に限られています。
 なかでも、本人が生涯をかけて築き、守ってきた大切な財産をどう活用してもらうか、つまり遺産相続に関する事項というのは、大変重要です。「遺産相続なんて一部の資産家だけの問題だ」と思っている人が多いのですが、どんな家庭にも多かれ少なかれ財産は存在します。その財産の配分を巡って、親族間で争いの起こることが少なくないのです。それまで仲のよかった身内が骨肉の争いを起こすようなことは、当人たちはもとより、財産を遺した本人にとっても大変悲しいことだと言わざるを得ません。そうした悲劇を防止するためにも、遺言はとても重要な働きをしてくれます。
 事前にトラブルが起こりそうなところを考慮しながら、それぞれの相続人にどのように相続させるかを遺言書で指示しておけばトラブルのない円満な相続を迎えることができるでしょう。

法的に遺言として認められる内容(抜粋)
  • 自分の子を認知する
  • 遺言を執行する人(実際に動いてくれる人)を指定する
  • 財産を譲る
  • 財産の分配方法を決める
  • 財産の分配を禁止する
  • 後見人、後見監督人を指定する

備えとしての成年後見制度の契約と遺言を同時に作成するメリットは

 備えとしての成年後見制度の契約を作成する際に、同時に遺言を作成する事例が多く見受けられます。その理由は、備えとしての成年後見制度(任意後見)を充実させるためには、本人が元気でいるときに利用する任意後見制度と本人の死後に効力を生じる遺言制度の双方を利用することにより、成年後見制度の基本理念の一つである自己決定権を尊重することができるからです。

遺言を執行する人(実際に動いてくれる人)は必要か

 遺言の内容をスムーズに実行させるためには、遺言で遺言執行者(実際に財産の処分に関して実行してくれる人)を決めておいたほうがより確実です。
 自分が死んでから、残される人に、よかれと思って行う遺言でも、それがスムーズに実行されるとは限りません。相続人の数が多かったり、相続人同士の人間関係が複雑だったりと、それぞれの思惑が交錯して、各人が勝手なことを言い合うようなケースも出てきます。そんなとき、中心になって遺言の執行を進めてくれる執行者を、遺言で決めておくことは、死後の遺志を実現させるためには大変有効です。
 遺言の執行者には、原則として未成年者と自己破産を申し立てた人以外は誰でもなれることになっています。任意後見人を指名しておき、本人の生前から死後にかけてスムーズに自分の意志を実現してもらうこともいいと思います。

サポートする制度を利用した事例

備えとしての成年後見制度(任意後見)の契約と見守り契約を締結した事例

 68歳のAさん(女性)は、2年前に夫Bさんに先立たれてしまい、自宅で暮らしています。Aさんには子供がなく、料理や洗濯など家事はすべて1人でこなしてきました。お酒と魚が大好きなAさんは、新鮮な魚を料理してつまみにしている生活に十分満足しています。また、以前趣味で集めたワインも飲み頃であり、一日置きに少しずつ購入したときの思い出を浮かべながら楽しく飲んでいます。年金や貯金も平均的な家庭ほどあるとAさんは思っています。そんなAさんでしたが、やたらと喉が渇き、疲れやすいので病院へ行ったところ、糖尿病であると診断され、緊急入院しました。健康が取柄のAさんは、大変弱気になってしまいました。
 病院の医療相談室の相談員から、身寄りのないAさんは、司法書士などの専門家に後見人なってもらえば、何かあっても安心ではないか、という話を聞きました。是非、一度会って話しを聞きたいと思い、司法書士に相談したところ、成年後見制度のことを知り、見守り契約と備えとしての成年後見制度(任意後見)の契約がAさんには必要であることがわかりました。Aさんの希望は、今は元気で生活できるので変に干渉されるのは困ることと、将来、糖尿病が進行したときや認知症になったときの支援です。今の気ままな生活をそっと見守ってもらいたいという気持ちでいっぱいです。
 Aさんは、魚とお酒が大好きなので、将来、魚が美味しく、お酒が飲める有料老人ホームに入所することが希望です。また、死後の事務も依頼しようと思っています。Aさんは、3ヶ月程打ち合わせを重ねた末、入所したい施設も検討し、死後の事務についても、遺骨を亡夫Bさんのお墓に分骨した後、野山が好きなので散骨を行う質素な予算を立てました。それらの希望が叶うように、司法書士と見守り契約と備えとしての成年後見制度(任意後見)の契約を締結し、そして死後の事務についても遺言を残すことになりました。

遺言を成年後見制度とともに利用した事例

 78歳のCさん(男性)は、移行型の任意後見契約と公正証書遺言をセットで作成しました。本人の頭はしっかりしていますが、高齢により身体が不自由なため、任意代理契約を開始して、任意代理人が本人の生活・療養看護および財産管理の事務を代理しています。
 一人暮らしのCさんは、在宅での生活が困難になったので、老後を有料老人ホームで生活することに決めました。本人は、将来、病気になった時は、苦痛を和らげる医療を望みますが、胃ろうなどを行うことは希望しません。
 葬儀の方法や費用も任意代理人と相談して概略を決めました。自分の財産は、自分のために利用しようと考えています。万一、自分の財産が自分の死後、葬儀費用や生前の債務を支払っても余ったときは、本人が以前サンフランシスコに旅行して楽しい思い出を一杯つくることができた、現地でお世話になったアメリカ人のDさん(男性)のおかげと思っていて、相続人のいない本人は、その行為に感謝してDさんに自分の財産を遺贈したいと思っています。
 本人は、任意後見契約が開始する前に末期癌を患い、任意代理人が探したホスピスに入院して最後を迎えました。遺言執行者となった任意代理人は、本人の遺志を実行して、本人の債務を清算した残余財産をアメリカ人のDさんに遺贈しました。